トルコのアンタルヤは、歴史的な街並みと美しい海を兼ね備えた場所ということで以前から期待していた。日本ではまだ馴染みが薄いかもしれないが、ヨーロッパでは休暇を過ごす人気の観光地として知られている。冬でも暖かく過ごしやすい気候であり、寒さを逃れるための滞在先としても適している。今回は数日間をかけて、この魅力的な旧市街を一通り散策した。
Antalya Clock Tower
最初に向かったのは、この街の象徴である時計塔だ。オスマン帝国時代に建てられたというその佇まいは、現代の街の中にあっても歴史の重みを静かに伝えており、自然と人々が集まってくるような独特の雰囲気がある。塔の近くには展望台があり、そこから見渡す街並みは歴史と自然が調和した素晴らしい眺めだった。旧市街の通りは隅々まで非常に整備されており、観光客にとっても歩きやすい環境だが、坂道も多いため散策には歩きやすい靴を用意しておくのが無難だ。
この塔は1901年、オスマン帝国皇帝アブデュルハミト2世の即位25周年を記念して建てられたという。もとはカレイチを囲んでいた80基もの城壁の望楼のうち、現存する唯一のものを転用したものだそうで、高さは14mほど、四角い土台の上に円形の造りを載せた独特の形をしているとのことだった。単なる時計台ではなく、この街の城壁時代の記憶を今に伝える数少ない遺構でもあると知り、見え方が少し変わった。

時計塔のほど近く、旧市街を散策していると石畳の路地が続いている。建物の壁面は歴史を感じさせる質感であり、日中の光が影を落とす様子は穏やかだ。

Kaleici Marina
時計塔から南下すると、旧市街の中心に位置するカレイチマリーナへと至る。このマリーナには多くのヨットやボートが係留されており、歴史的な城壁に囲まれた立地も相まって、港町特有の風情が色濃く漂っている。船が並ぶ光景を眺めながら歩いていると、歴史的な景観と現代のレジャーが隣り合わせにある独特の空気感を体感できた。
このマリーナの歴史は紀元前150年頃、ペルガモン王アッタロス2世がこの地に都市を築いたことに遡るという。以来ローマ・ビザンツ・セルジューク・オスマンと支配者が変わりながらも港としての役割は絶えず続いてきたそうで、1472年にはローマ教皇の艦隊がここを襲撃し、入港を守っていた鎖を戦利品として持ち去ったという逸話も残っているらしい。今はヨットが並ぶ穏やかな港だが、そんな物騒な歴史があったとは意外だった。


Mermerli Plajı
マリーナの上、城壁の下に位置しているのがメルメルリビーチ(Mermerli Plajı)だ。マリーナから続く階段を上った先にある展望台からは、このビーチの全景を見渡すことができる。市街地から徒歩圏内で気軽に海に入れる場所があるのは、他の観光地にはないこの街の大きな魅力の一つだろう。
「メルメルリ」という名前は、かつてこの一帯にあったメルメルリ・キョシュク(大理石の東屋)という建物に由来するのだという。旧市街の城壁の真下という立地は、オスマン時代から地元の人々の海水浴場として親しまれてきた歴史があるそうで、100年以上前から人々に泳がれてきた場所だと知ると、目の前の景色にも一層の趣が加わる気がした。

Hidirlik Tower
さらに海岸沿いを南へ進むと、2世紀頃に築かれたとされるヒディルリク塔(Hidirlik Tower)がある。現存するアンタルヤ最古の建造物の一つであり、灯台や防御施設として機能していたとされる円筒形の外観には、強固な防御力を感じさせる厳かな風格があった。現在は保全のための工事中だったが、その歴史的な価値の片鱗は十分に伝わってきた。
この塔の正体については諸説あり、2世紀頃にローマの有力者の墓として建てられたという説が有力視されている一方、その後ビザンツ時代に灯台や見張り台として転用されたとも言われているという。塔の入口脇にはローマの権威を象徴する「ファスケス」の浮き彫りが残っているそうで、名前の「ヒドゥルルック」も、春の訪れを告げる伝説上の人物ヒドゥルにちなむものだといい、毎年5月には地元の人々がこの場所に集まって春を祝う祭りを行ってきたとのことだった。

カラアリオウル公園
塔の近くにはカラアリオウル公園がある。この公園は地中海を見渡せる絶好の展望ポイントで、市民の憩いの場にもなっている。園内には様々な銅像が設置されており、特に白い石像は街を守る不屈の意思のようなものを感じさせた。また、街の名前が刻まれた記念プレートも置かれており、美しい海を背景に撮影ができるお勧めのスポットだ。
この公園が整備されたのは1943年のことで、当初は初代大統領イノニュにちなみ「イノニュ公園」と呼ばれていたが、後にこの土地の元地主の名前を取って現在のカラアリオウル公園という名前に改められたのだという。園内には「働く人と子供」の像やドン・キホーテの像など様々な彫刻が点在しており、私が目にした白い石像もその一つだったのだろう。


Antalya Hamitbey Plajı・食事
さらに公園から南下を続けるとアミットベイビーチ(Hamitbey Plajı)に到達する。ここは地元の人が知る隠れた海水浴スポットで、道路から階段を下りた先にある。周囲では大規模な開発が進められていたため、こののどかな景観は将来的に変わってしまうかもしれない。しかし、現在は旧市街付近で無料で泳ぐことができる貴重で良い場所だった。
このあたり一帯は古くから地中海沿岸の街として栄えてきたが、旧市街のすぐ外側でこうした無料の遊泳スポットが今も残っているのは、観光地化が進むアンタルヤの中では貴重な存在だという。周辺では新しいホテルやリゾート開発が急速に進んでいるとのことで、こののどかな雰囲気がいつまで続くのかは分からないが、だからこそ今のうちに訪れておく価値があるように感じた。

散策の最後は「Dönerciniz」で食事をとった。注文したイスカンダルケバブはボリュームがあり、期待通り非常に味が良かった。地中海を眺めながら歴史的な街並みを歩き、最後は地元の味に落ち着くというこのルーティンは、アンタルヤの魅力を凝縮したような時間だった。短期間の観光はもちろん、長期間住んでも飽きることのない、素晴らしい街だと感じた。
