アテナエウム
この日のブカレスト散策は、市内を代表するコンサートホールであるアテナエウムから始まった。1886年に着工し1888年に開館したこの建物は、新古典様式の円形の構造と壮麗なドームが特徴だ。円形なのは、かつて馬術学校があった跡地の基礎をそのまま利用したためだといい、建設資金の一部は「アテナエウムに1レウを」という標語のもと、市民からの28年にも及ぶ寄付によって賄われたという。1919年には、この大ホールでルーマニア各地域の統合を可決する歴史的な議決も行われた場所だ。朝の早い時間帯に現地へ向かったが、残念ながら入館は午後2時からと案内され、今回は内部の見学を断念した。次回の訪問時には、ジョージ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地でもあるこの場所の内部もぜひ見てみたい。
設計を手がけたのはフランス人建築家アルベール・ガルロンで、館内の大ホールを一周する全長75mのフレスコ画は、画家コスティン・ペトレスクが完成までに実に何年もかけて手がけたものだという。ダキア征服からルーマニア統一までの歴史を25の場面で描いたというこの大作も、次回訪れる際にはぜひこの目で見てみたい。

ルーマニア国立美術館
アテナエウムから通りを挟んで少し歩いた場所にあるルーマニア国立美術館へ向かった。ここはかつての王宮の建物を利用した美術館で、1947年のミハイ1世退位・王制廃止後、翌1948年に国立美術館として開館した。中世美術から近代絵画までを網羅する、国内最大級の収蔵品を誇る施設だ。久しぶりの美術館ということもあってか、館内を歩いているとまるで脳の違う場所に血流がいっているような感覚を覚えた。展示されているどの美術品も素晴らしく、気がつけば夢中で2時間程度は見学していた。

Equestrian Statue of Carol I・Memorial of Rebirth
美術館の周辺には、歴史を感じさせるモニュメントも点在している。旧王宮広場の一角には、ルーマニア王カロル1世の堂々とした騎馬像が設置されている。初代の像は1939年に建てられたが1948年の共産政権により破壊され、現在の像は2010年に再建されたものだという。同じ広場は1989年のルーマニア革命の際、チャウシェスクが最後の演説を行い、そのまま群衆の抗議によって政権崩壊が始まった場所でもあり、犠牲者を追悼する高さ25mの「Memorial of Rebirth(再生の記念碑)」がそびえ立っている。


クレツレスク教会
駅を目指して歩みを進める道中、クレツレスク教会を見かけた。1720〜1722年に貴族イオルダケ・クレツレスクとその妻サフタによって建造されたこの教会は、赤煉瓦の外壁が特徴的なブランコヴェネスク様式の小規模な建物だ。サフタの父は処刑された公であり、夫が亡命先から生還できたことへの感謝を込めて建てられたと言われている。1940年・1977年の地震や1989年の革命でも被害を受けながら、その都度修復されて残っているという。公園の端にポツンとたたずむその控えめな姿は、街の生活に静かに溶け込んでおり、小さいながらも当地になくてはならない拠り所としての存在感を放っていた。さらに先へ進むと、湖のあるチシェミジウ公園が視界に入る。公園内では市民の方々がボートに乗り、思い思いに休日を過ごしていた。

公園を抜けてメトロと徒歩でブカレストノード駅に着く。この駅は滞在中何度も使い馴染んだ駅だ。ルーマニア各地の主要な都市への列車等が出ているため、今後も多く使うだろうなという予感がした。
今回は旧市街の中心から少し離れた近代的なエリアを中心に歩いたが、どこも安全で散策しやすい環境だった。滞在中、運転のマナーが非常によく、歩行者を見かけるとすぐに車が止まってくれる光景を何度も目にした。こうした市民の意識の高さにも触れ、ルーマニアという国への愛着がより一層深まった一日となった。
