4月下旬の天気のいい日に、いつもとは違うコースを走ってみようと思い、藤枝市方面から宇津ノ谷を越えるサイクリングに出かけた。藤枝市内を抜けて山に近づくにつれ、街中の景色が少しずつ自然の色に変わっていった。
坂下地蔵堂
最初に立ち寄ったのは坂下地蔵堂だった。道端から石積みの階段を上がった先に堂があり、周囲は木々に囲まれている。宇津ノ谷峠を通行する旅人の道中安全を祈願する場所らしく、街道沿いに立つ地蔵が、古くからの道祖神信仰と結びつき、旅や道の安全を願う対象として祀られてきたことも納得できる場所だった。峠越えを控えた旅人がここで足を止めたことを想像しながら、静かな境内を見て回った。

つたの細道公園
そのまま進むと、平安時代から続く旧道「蔦の細道」の入口にあたるつたの細道公園がある。園内には木和田川が流れ、小川に木製の橋が架けられていた。橋の周囲は芝生や低い植栽で整えられ、少し離れたところには水車小屋や休憩所もある。車で入るにはかなり狭い道だが、自転車なら問題なく進めた。車用の駐車場も用意されている。

蔦の細道は日本で初めて「旅ブーム」を起こしたとされる歴史を持ち、日本遺産にも登録されている。蔦の細道(岡部口)までは自転車で登っていくことができたものの、進むにつれて砂利が増えてきた。自転車でそのまま進むのは難しいと判断し、ここで止めて、少し徒歩で山の方へ向かってから引き返した。道の両側は木々が重なり、先ほどよりも緑が深い。歩いていると森林浴をしているような気分になった。

蔦の細道(岡部口)まで自転車で登っていくと、道はさらに山の方へ続いていたが、砂利が増えてきて自転車での走行は難しくなった。ここで自転車を止め、岩の間を水がすり抜けるように流れる一角を横目に、しばらく徒歩で山の方へ向かってから引き返した。自転車と岩場の流れを一緒に写せる場所で、舗装路から旧道へ入った感覚が強く残っている。

引き返す途中、竹林に囲まれたもう一つの木橋を渡った。日差しが竹の葉越しに差し込み、先ほどの開けた木橋とは違う落ち着いた雰囲気だった。公園には木和田川に沿った自然の景色だけでなく、明治時代に築造された石積みの砂防施設、兜堰堤も現存しており、歴史と自然の両方を感じられる場所になっている。

少し先では川の水がまとまって落ちる場所も見られた。大きな観光滝という規模ではないが、周囲の岩や草の緑と組み合わさった景色には、つたの細道公園らしい落ち着きがあった。舗装された道から短い徒歩の区間へ移り、橋や川、滝のような流れを順に見られるため、自転車を置いて歩く時間も含めて楽しめる場所だと思う。

つたの細道公園を出て、帰りにバイパスの橋の上まで行ってみると、出発時よりも天気が良くなっていて、青空が広がっていた。山の緑と空の明るさが重なり、ここまで来てよかったと思える眺めだった。市街地とは違う山間の道を自転車で進んでいることを実感する区間でもあった。

大鈩不動尊
次に向かったのは、静岡市駿河区丸子の山中にある大鈩不動尊だった。メインの道路からはかなり離れた森の中にあり、杉林に囲まれた高さ約2mの滝の上に堂が建っている。滝の両側には十六羅漢像が並び、周囲には赤い前掛けをかけた小さなお地蔵さんが数多く奉納されていた。小さな滝の水音と、岩肌やシダに覆われた森の雰囲気が重なり、とても印象的な場所だった。

大鈩不動尊には、戦国時代に駿河を攻略した武田信玄が丸子城の守り本尊とした愛宕山大権現の堂と、不動明王堂が祀られている。境内は滝を中心に道や小さな橋が続き、地蔵や石像が斜面のあちこちに見える。赤い前掛けが緑の中で目に入り、同じ場所に長く信仰が積み重なってきたことを感じさせた。

滝のそばには手すりの付いた通路があり、水の流れを横目に歩いていくことができた。森の中は明るい場所と影の濃い場所が入り混じり、滝の白い水がその境目でよく目立っていた。道幅は広くなく、足元を見ながら進む必要はあるが、滝と石像を近い距離で見られるのが特徴だった。毎月28日は縁日で、参道沿いに朝市が立つことでも知られている。

奉納された地蔵の中には、赤い頭巾や赤い肩掛けを着けたものもあった。近くで見ると、それぞれ表情や衣服の違いがあり、単に同じ姿が並んでいるというより、一体ずつに手が入れられているように見えた。森の静けさの中で、小さな地蔵と滝の水音が続く大鈩不動尊は、今回の行程の中でも特に記憶に残っている。

石部海上橋・大崩海岸
そこからさらに山を時計回りに回る形で進み、海岸線へ出た。石部海上橋は、海の上を走っているように感じられる道で、実際に自転車で通ると少しスリルがあった。1971年の道路崩落を受けて、海上60m沖合に全長360mの橋が架けられたという。山側の急な斜面と海側の開けた景色が隣り合い、山道から一気に海へ出た変化も大きかった。

少し進んだところにある大崩海岸では、海と急崖がつくるダイナミックな景色を見ることができた。大崩海岸は静岡市駿河区石部から焼津市浜当目まで約4km続く急崖の海岸で、崩落が多いことからこの名前が付いたとされる。駿河湾の水面が広く見渡せ、海岸線の険しさと開放感が同時に感じられた。藤枝市と静岡市をめぐるこの日のサイクリングは、ここで終わりにした。

東海道金谷坂石畳
その1週間後には、金谷の東海道金谷坂石畳へ向かった。大井川のサイクリングロードを北上しながら走り、旧東海道の入口に着くと、一般の道路と石畳の境目がはっきりしていた。江戸時代の金谷坂は粘土質で滑りやすい急坂だったため、幕府の命で山石を敷き詰めた石畳が作られたという。一度は舗装されたものの、平成3年(1991年)に地元住民の手で約430mの石畳として復元されている。

石畳は見た目にも凹凸が大きく、さすがに自転車で走ることはできなかったので、降りて歩くことにした。短い距離ではあるが、普段の道路とは足元の感触がまったく違う。石の一つひとつを確認しながら進むため、坂の勾配だけでなく、昔の街道を歩いている感覚も味わえた。

途中には石畳茶屋があり、街道沿いの休憩場所らしい雰囲気が残っていた。周囲の木々や建物を眺めながら歩いていると、単に石を敷いた坂を見るだけでなく、旅人がこの道を行き来していた歴史を想像できる。自転車で訪れても、石畳の区間だけは歩くことで景色を落ち着いて見られた。

石畳の両脇には、すべらず地蔵尊へ向かう赤い旗が並んでいた。赤い旗が連続することで道の先が強調され、緑の中でもよく目立っていた。舗装路から石畳へ入り、旗の並ぶ坂を歩く流れには、この場所ならではの特色がある。距離がそれほど長くない石畳でも、途中にこうした目印があることで、歩く楽しさが増していた。

すべらず地蔵尊
石畳の中腹にある小さな六角堂には、すべらず地蔵尊が祀られている。石畳に「すべらない山石」が使われたことにちなんだ名前で、「安全に、滑らず、転ばず、着実に進めるように」との願いから、合格祈願や商売繁盛の名所になっている。小さなお堂ながら、金谷坂の石畳と結びついた意味が分かりやすく、歩いていて面白い場所だった。

牧之原公園
石畳を抜けた後は牧之原公園を自転車で走り、そのまま帰路についた。島田市金谷の標高約180m、牧之原台地上にある展望公園で、茶祖・栄西禅師の像が立っている。今回は公園からの眺望をじっくり確認したというより、茶畑の広がる台地を走る印象が強かったが、晴れた日には富士山や南アルプス、駿河湾まで一望できる場所だという。日本夜景遺産にも認定され、春先にはカタクリの群生も見られる。山、川、海、旧街道、茶畑を自転車でつないだ今回の旅は、静岡の自然と文化をまとめて感じられる有意義な行程だった。

坂道や砂利道では自転車を押して歩く場面もあるが、旧道や水辺、滝、海岸、茶畑を一度にめぐりたい人には向いており、私はまた季節を変えて走ってみたいと思う。