マルギット島
ドナウ川の中州にあるマルギット島を南から北へ散歩した。南北約2.5kmに細長い公園島は緑が豊かで、多くのランナーやサイクリストが行き交う住民の憩いの場だった。島名は13世紀にこの島の修道院で暮らしたマルギット王女に由来するという。南の入り口で見かけた音楽噴水は勢いよく水を噴き上げており、島の中心付近にはシンボル的存在である給水塔が建っていた。
公園内には中世の面影を残す遺構も点在しているという。ベーラ4世がモンゴル侵攻からの生還を神に誓い、幼いマルギットをこの地の修道院に捧げたという逸話が伝わっており、王女は生涯をこの島で過ごし29歳で没した後、1943年に列聖されたそうだ。ドミニコ会修道院の跡地には赤大理石の墓碑が残り、静かな祈りの場となっているとのことで、今回は音楽噴水と給水塔を巡るにとどまったが、次に訪れる際はこうした遺構もじっくり見て回りたいと思った。


英雄広場
続いてトラムでシティパークへ移動し、英雄広場を訪れた。ハンガリー建国1000年を記念して1896年に完成したという広場には、マジャル七部族の長の騎馬像を中心とした記念碑が鎮座しており、世界遺産にも含まれるという歴史の重みを感じた。すぐ近くの池の対岸には、ヴァイダフニャド城が見えた。建国千年祭のため同じく1896年に建てられたパビリオンで、実在するトランシルヴァニアのフニャド城を模しているとのこと、ロマネスクからバロックまで多彩な建築様式が組み合わさった外観が印象的だった。重厚な塔と、湖に架かる橋を通り抜ける形式の門構えは、曇り空も相まってどこか物語に出てくる城のような雰囲気を纏っていた。
実はこの城、由緒正しい歴史的建造物ではなく、ハンガリー国内に実在する21の名城の意匠を寄せ集めて作った「見立て」の建築なのだという。外観の物々しさとは裏腹に、内部は今やヨーロッパ最大級とされるハンガリー農業博物館になっており、畜産・酪農・ブドウ栽培とワイン造りの歴史を紹介する展示室が並び、地元産のワインと料理を楽しめるレストランも入っているとのことだった。ファンタジーの城かと思いきや、蓋を開けてみれば農業がテーマという意外性も含めて記憶に残る建物だった。


ハウス・オブ・ミュージック・ハンガリー
最後に、音楽をテーマにした施設、ハウス・オブ・ミュージック・ハンガリーへ立ち寄った。日本人建築家・藤本壮介が2014年の国際設計コンペで選ばれ手掛けた施設で、2022年1月に開館した比較的新しい建物だという。周囲に緑が茂る中、木の葉をイメージしたという波打つ屋根と、無数の穴が開いた独特な外観が目を引く。内部から見上げると、金属製の葉を模した装飾と丸い開口部から光が木漏れ日のように差し込み、まるで森の木立の下にいるような柔らかな明るさに包まれていた。地下には31基のスピーカーで360度の音響を体験できる球体状の「サウンドドーム」もあるとのことで、歴史的建造物から最新の建築まで幅広く巡ることができ、充実した一日となった。
