与那国島の西側を一通り見終えたので、反時計回りに島を一周してみた。2019年6月の訪問では、自然景観だけでなく、牧場やロケ地、展望台、食事まで、コンパクトな島の中に見どころが続いていた。
南牧場からDr.コトー診療所へ
最初に立ち寄った南牧場では、与那国馬が広い牧草地に放牧されていた。海を背景に小柄な馬たちが思い思いに過ごしている風景は牧歌的で、見ていると心が洗われる気がした。与那国馬は日本在来馬8種の一つで、体高110〜120cmほどの小柄な在来種だという。日本最西端の離島という立地のため他馬種との交雑を免れ、純血性が守られてきた。かつては農耕や琉球競馬にも使われ、現在は島の東・北・南にある3牧場で保護増殖が行われている。海の青さと緑の牧草地、その中に点在する馬の姿が印象に残った。

南牧場から東へ少し進むと、カタブル浜が見えてくる。砂浜には少し石が混じっていたが、浅い海と砂浜、周囲の陸地がつながりそうに見える地形がおもしろかった。大きな観光地というより、道沿いで立ち止まって海を眺めるような浜で、空と海の境目が広く感じられた。

その近くの比川集落には、ドラマ「Dr.コトー診療所」のロケ地がある。白くて特徴のある建物なので、遠くからでも一目で分かった。入場チケットを300円で購入し、中を見学した。劇中の診療所セットは撮影当時のまま保存・公開されており、建物の中には昔ながらのかわいらしい案内板や受付が残っている。壁には子どもの身長を測る表示もあり、診療所として使われていた雰囲気がそのまま感じられた。

「Dr.コトー診療所」は2003年放送開始のフジテレビ系ドラマで、架空の島・志木那島を舞台にしている。実際のロケ地は与那国島南部の比川集落で、診療所のすぐ目の前には比川浜が広がる。受付には「受付」と書かれた窓口があり、撮影用の施設でありながら、細かな備品まで含めて一つの診療所らしく整えられていた。

館内には、身近な場所にある診療所を思わせる掲示物や、少し年季の入った内装も残っていた。シンボルの一つである自転車も展示されており、ドラマを知っている人なら、場面を思い浮かべながら見学できる場所だと思う。

受付の正面には昔ながらのカウンターがあり、診療所のセットであることを意識しながらも、実際に島の医療施設として使われていそうな落ち着きがあった。私はドラマをほとんど見たことがなかったため、ロケ地としての感慨は限定的だった。再び与那国島を訪れるなら、今度は作品を見てから立ち寄りたいと思った。

待合や診療所らしい空間には、劇中の印象的な自転車も置かれていた。ドラマは2003年から放送された作品で、架空の志木那島の舞台として与那国島が登場する。作品を知らなくても建物や道具を見る楽しさはあるが、予備知識があれば、より具体的に楽しめたはずだと思う。

立神岩と軍艦岩
さらに東へ進むと、立神岩と立神岩展望台がある。立神岩は高さ約25mの奇岩で、地元では「頓岩(とぅんがん)」とも呼ばれ、与那国島のシンボルの一つとされている。岩の表面はギザギザしていて、海の中からしっかり立ち上がっているように見えた。周囲の海は青や緑が入り混じり、岩の根元では波が白く砕けている。波が岩に打ちつける姿には迫力があった。

立神岩展望台は2階建てで、岩を眼下に見下ろす角度から眺められる。展望スペースは広々としていて、景色を見た後に少し休憩するのにもちょうどよかった。海面近くの岩礁まで見通せるため、立神岩の形だけでなく、島の断崖と海の距離感も分かる。自然の造形を近くで感じたい人には、島を一周する中でも外しにくい場所だと思う。

北へ少し進むと、軍艦岩展望台がある。正式には「サンニヌ台」と呼ばれる断崖上の展望地で、板状の地層が積み重なった独特の地形から、軍艦岩を間近に見下ろせる。突き出すような崖が軍艦のように見え、名前の通りの印象を受けた。駐車場には記念碑もあり、ここは「琉球の風」というドラマのロケ地だったようだ。NHK大河ドラマ「琉球の風」の撮影地でもあり、景観とロケ地の記憶が重なっている。
展望台付近からは、海に向かって伸びる崖と、段差のある地層の様子がよく見えた。風雨に削られた地形は、単純な一枚岩とは違う複雑さがあり、軍艦という呼び名にも納得できる。過去には台風被害で崩落し、立ち入り禁止になった時期もあったというので、訪問時には案内や立ち入り状況を確認したい場所でもある。

さらに海側をのぞくと、断崖の先に続く岩場と、青く広がる海が見渡せた。足元の地形には高低差があり、展望地から見ることで岩の積み重なりが分かりやすい。静かな景色だが、崖の形には荒々しさがあり、立神岩とは別の迫力があった。

東崎の断崖と灯台
与那国島の東端まで行くと、東崎展望台の案内が記載された石がある。そこから少し歩いて海側を見ると、風が少し強かったためか海の様子がよく分かり、流れる雲とのコントラストが美しかった。東崎は海面から約100mの断崖絶壁の岬で、西崎と対をなす与那国島の東端にあたる。「あがり」は日の上る東、「いり」は日の入る西を意味する方言で、島の東西を表す呼び方にも土地の感覚が残っている。

周辺は牧草地になっていて、東崎に近づくにつれて視界が大きく開けていく。晴天時には東方に西表島を望めるというが、この日は空と海の広がり、流れる雲、断崖の緑が印象に残った。東崎周辺は沖縄県の自然環境保全地域にも指定されており、景観の中に広がる牧草地も含めて、島の自然を感じられる場所だった。

さらに進むと展望台が見えてくるが、与那国馬がその日陰で休んでいた。南牧場でも馬を見たものの、展望台の下で海風を避けるように過ごす姿は、より周囲の環境に溶け込んで見えた。観光用に整えられた展望台と、自然のままに休む馬の組み合わせが、与那国島らしく感じられた。

近くには東崎灯台が白くそびえている。白い灯台と黒っぽい石垣、背後の青空がよく映えていた。灯台の周囲から断崖絶壁の下を見てみると、海の青さと透明さ、岩場の迫力が非常に美しかった。海面の色が場所によって変わり、岩礁や波の白さまで見通せるので、東崎は島の中でも特に海の存在感が強い景勝地だと思う。

断崖の下には、透明な海の中に岩が点在している様子が見えた。波が岩に当たるところだけ白く泡立ち、その周囲の青緑色の海との対比が鮮明だった。東端まで来たという地理的な実感と、海を見下ろす高さの両方を味わえる場所だった。

ダンヌ浜と帰路
ここからは一気に西へ向かい、ダンヌ浜へ移動した。ダンヌ浜はかなり小ぶりな浜で、周囲から少し切り離されたようなプライベート感があった。砂浜の先には穏やかに海が広がり、規模の大きなビーチとは違う静けさがある。その中でも特に印象に残ったのが、ダンヌ浜公衆便所のつくりだった。

公衆便所の出入口は円形にくり抜かれており、その向こう側の海を額縁のように切り取って見せる設計になっている。建物越しに見る海の景色は格別で、もしかしたら日本一美しい景色が見える公衆便所の一つかもしれないと思った。トイレ棟の先には小さな砂浜が広がり、与那国島では西端の碑周辺に次いで西に位置するビーチとされている。こういう面白い公衆便所は、もっと増えてほしいと思う。

こうして与那国島を一周し、翌日はダイビングを行った。海のきれいさは期待を裏切らず、素晴らしい体験だった。島を陸から眺めた後に海の中にも入ることで、断崖や岩礁を見てきた景色とは別の、海そのものの魅力を感じられた。

一通りやることを終え、与那国空港へ向かった。空港のMarlin Cafeで食べた海鮮丼は、空港のものとは思えないほどクオリティが高く、ボリュームも多かった。海鮮丼にサラダと汁物が付いた内容で、最後の食事として大満足だった。

その後、帰りの飛行機に乗り、石垣島へ戻った。与那国島はコンパクトだが見どころが非常に多く、4泊5日する価値は大いにあった。これほど海がきれいな島もなかなかないと思うし、海産物もとてもおいしい。最西端の島なので遠さはあるが、次回は「Dr.コトー診療所」を見てから訪れ、気ままにシュノーケリングを楽しむ過ごし方も試してみたい。
